薬用動植物国内栽培事業
岐阜県岐阜市 Gifu City
東海道の要衝・岐阜市は、中京圏の代表都市としての顔と、木曽川・揖斐川・長良川がもたらす濃尾平野の肥沃な土壌が育む近郊農業地域としての顔を併せ持っています。
岐阜市においては平成27(2015)年3月に連携協定を締結し、薬用作物栽培事業がスタートしました。
岐阜市における栽培品目
カワラヨモギ、キキョウ、ミシマサイコ、ハトムギ、ジオウ
(太字は出荷実績あり)
カワラヨモギは防腐剤原料等としてメーカーに出荷実績があり、キキョウ、ミシマサイコは薬用に、ハトムギは食品用としての利活用を主に想定しております。
【適材適所】で円滑な情報共有
薬用作物栽培に協力する栽培農家はいずれも他の営農作物の専業農家であり、栽培技術に習熟したスペシャリストです。
行政は、情報の集約点として有力な立ち位置にいますが、集まる情報のうち栽培技術・ノウハウの理解と実行力はやはり専業農家が長けています。そこで岐阜市では栽培情報の収集や分析、生産者支援などを委託事業とすることで、情報の共有と知識の蓄積を円滑に進める体制を構築しています。
この連携体制により、栽培技術を比較的短期間で習得でき、早期に栽培面積を拡大することもできました。
川沿いに広がるカワラヨモギ圃場
収穫間近のカワラヨモギ花穂
出荷への道筋
カワラヨモギにおいて出荷実績のある防腐剤は、正確には柑橘類の鮮度保持剤というカテゴリーになり、収穫した果実につく緑カビ病菌等に対する抗菌・増殖予防効果を持つ製剤です。カワラヨモギ抽出物を主成分とする食品添加物に分類され、農薬ではないため輸送箱や包装への表示義務のない点も特徴で、各地の柑橘類生産地で需要があります。
さらに、生薬メーカーより局方対応のカワラヨモギ(インチンコウ)契約栽培に関する新たな打診もあり、生産農家が中心となって調整を進めているところです。
利用部分は生薬インチンコウ・鮮度保持剤ともに花穂(かすい)部分であって、栽培、修治(=加工調製)の方法論には共通点が多く、効率的な生産が期待されます。
また、ジオウにおいても医薬品メーカーより打診を受けて、試験栽培に着手しています。
このように、各メーカーからの生産のオファーが複数あり、将来の出荷先が確保されていることは生産サイドとしては心強いことで、交通・情報の要衝である岐阜市の立地が栽培事業に活きていると言えます。
課題克服のための【現場志向】
すべての栽培拠点に共通することですが、栽培〜収穫〜調製のプロセスは順調なことばかりではありません。
岐阜市における課題のひとつが暑さ対策です。濃尾平野特有の夏季の高温多湿は、除草作業を一層ハードなものにしており、人力防除では限界があるため、マルチの適正利用や、雑草負けしない生育株を確保する育苗方法の研究を継続的に行っています。
キキョウ・ミシマサイコについては令和元年の作付けから直播栽培に加えてチェーンポットによる育苗・定植を導入し、確実な生育を試みています。
キキョウ根部の生育状況
地上茎の本数を抑えた方が良好な直根が得られる
栽培指導と情報共有の模様
修治(=加工調製)については、平成30年度に県・市共同の補助事業を活用して乾燥機などを導入、また農機具メーカーと共同でカワラヨモギの選別機の試作開発を行っています。
今後は企業の現場改善で活用されているPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Act)の手法を取り入れ、栽培・修治技術の検証と改善策を探りながら、適切な栽培品目の「選択と集中」を進めることが中長期的課題と位置づけています。
そして品質と数量を安定的に供給する体制を整え、「岐阜市モデル」として薬用作物の産地としての自立を目指しています。